高齢職員の安全衛生・ストレスチェック制度の拡大と2026年以降の人材戦略

高齢職員の安全配慮義務とストレスチェック拡大で介護事業者が準備すべきこと
目次

介護現場の人材構成は「60代が当たり前の時代」に

介護事業における人材構成は、近年大きく変化しています。

  • 60代・70代の介護職員の比率が年々上昇
  • 定年延長(65歳→70歳)を検討する法人が増加
  • 経験豊富だが身体負担が大きい業務が多い
  • 人手不足で「働ける人は皆戦力」の状況

こうした背景のもと、2026年の労働安全衛生法改正では、
「高齢労働者の安全配慮」と「メンタルヘルス(ストレスチェック等)の強化」
が大きなテーマになります。

介護事業は高齢者と接するだけでなく、
働く側も“高齢者”に近づいていることを前提に、
組織としての安全・健康管理体制が問われる時代に入ります。

2026年の安全衛生法改正のポイント(介護事業向け)

改正内容のなかでも介護事業者が押さえるべきは次の4点です。

① 高齢労働者(60歳以上)への安全配慮義務の強化

これまでも努力義務はありましたが、
2026年以降はより具体的で実効性のある義務に格上げされます。

高齢職員は以下のリスクが増加します。

  • 腰痛
  • 転倒・つまずき
  • 送迎時の事故
  • 夜勤時の体力低下
  • 聴覚・視力の低下
  • 持病の悪化

そのため、業務分担・配置・声かけ・研修などが
法人の“義務”として求められる方向です。

② ストレスチェック制度の対象拡大(中小規模も義務化へ)

従来:

  • 常時50人以上の事業場 → 実施義務
  • 50人未満 → 努力義務

今後:

50人未満でも実施が必須となる可能性が非常に高い とされています。

介護事業は小規模事業所が多く、
義務化するとほぼすべての事業所が対象になります。

③ メンタルヘルス対策の強化(一次予防中心に)

  • 休職者面談の明確化
  • 管理者のメンタルケア対応力
  • 長時間労働者への個別対応
  • モニタリングの強化

介護現場は“感情労働”が多く、
メンタル不調のリスクが高いため重点領域となります。

④ 安全衛生管理体制の整備(小規模でも必要)

従来は「50人未満は努力義務」が多かったのですが、
今後は次の事項が事実上の義務化・強化の方向です。

  • 衛生管理者の委嘱
  • 安全衛生委員会の整備(相当する会議体)
  • 健康診断後の事後措置
  • 産業医・外部専門家との連携
  • 職場巡視・リスクアセスメント

介護業界は転倒・腰痛・感染症など、
リスクが多い産業であるため重点強化が進んでいます。

「高齢職員」の安全配慮はどこまで必要?

法改正におけるポイントは「特別扱いする」という意味ではなく、
加齢に伴う変化を適切に理解した業務設計が求められるということです。

▼ 高齢職員への具体的な配慮例(介護現場向け)

① 身体負荷の大きい業務の調整

  • 入浴介助は若手中心、60代以上は見守り中心へ
  • 移乗介助は2名体制で実施
  • 重い物の持ち運びを避ける

② 夜勤・早番の配置変更

  • 夜勤は体力負担が非常に大きい
  • 「夜勤専従の若手+経験者の遅番」といった組合せを検討
  • 60代以上は日勤中心の配置が望ましい

③ 送迎業務の見直し

  • 視力・反応速度を考慮
  • 雨天や夜間の送迎は避ける
  • 同乗者をつけて運行

④ 設備環境の改善

  • 段差・滑り止め
  • 明るさの確保
  • 床材の見直し
  • ナースコールの音量調整

⑤ 健康状態の把握

  • 既往歴の把握
  • 血圧・血糖など定期的チェック
  • 無理な勤務を強いない風土づくり

ストレスチェック制度の実務対応(50人未満の事業所向け)

小規模事業所でも義務化されると想定されるため、
以下の手順で準備しておくことが必要です。

ストレスチェック運用のステップ

STEP
実施者の選定
  • 医師
  • 保健師
  • 産業カウンセラー

外部委託(年間5〜10万円程度)で対応可能。

STEP
職員への説明
  • 目的
  • プライバシー保護
  • 結果は本人にのみ通知
  • 事業者は本人同意がないと取得できない
STEP
チェック実施
  • Web/紙で回答
  • 15〜20分で完了
  • 年1回実施
STEP
高ストレス者への個別対応
  • 医師面談の勧奨
  • 勤務軽減
  • 配置転換
  • 面談記録の保管(機密性高)
STEP
職場環境改善(一次予防)
  • 人間関係の課題
  • 夜勤体制の改善
  • カスハラ問題の有無
  • 管理者の負担増大
  • 業務量の偏り

ストレスチェックは「職場の改善点を拾い上げるツール」として活用することが重要です。

安全衛生管理体制を整えるためのモデル(介護事業向け)

以下のような簡易モデルでも、
2026年改正に対応できるレベルになります。

① 安全衛生責任者(管理者)を明確化

  • 管理者(施設長・所長)が担当
  • 月1回以上の職場巡視(点検チェックリスト使用)

② 安全衛生ミーティング(月1回)

議題例:

  • 転倒・ヒヤリハット報告
  • 感染症の発生状況
  • 夜勤者の負担状況
  • カスハラ事案の共有
  • 高齢職員の負担増の有無

③ 腰痛防止研修・移乗技術の年1回以上実施

移乗支援ロボ・スライディングシート等の活用も推奨。

④ 感染症対策(手洗い・マスク・ゾーニング)の標準化

特に冬季・嘔吐処理・インフル・コロナに注意。

⑤ 個人防護具(PPE)の整備

  • 手袋、エプロン
  • ゴーグル
  • 体温計
  • 酸素飽和度計

法人本部による一括整備が望ましい。

2026年の安全衛生法改正が「人材戦略」になる理由

介護事業は人材不足が深刻です。
安全衛生の強化は“法令対応”であると同時に、
職員が安心して働ける職場づくり=離職の少ない組織づくりにつながります。

  • 若手の定着率が上がる
    • 安全配慮のある職場は、採用サイトでも強みになる。
  • ベテランの経験を活かし続けられる
    • 経験豊富な60代職員が長く活躍できる体制は、
      事業の質を上げる最大のポイントのひとつ。
  • 管理者の負担が軽減する
    • 事故・ヒヤリの件数が減るため、管理者の書類作業・家族対応が減る。
  • 利用者家族からの信頼性が高まる
    • 「安全に気を配っている事業所」という印象は、サービス評価にも直結

2026年までに取り組むべき「実務チェックリスト」

介護事業者向けに、
以下をチェックしていけば改正対応は完了します。

高齢職員(60歳以上)への配慮

  • 身体負荷の高い業務を棚卸し
  • 入浴・移乗介助は2名体制を検討
  • 夜勤配置の見直し
  • 送迎担当者を再評価
  • 健康状態ヒアリングの仕組みづくり

ストレスチェック制度

  • 外部委託先(医師・保健師)を決定
  • 年1回の実施スケジュールを設定
  • 結果の記録・保管方法を整理
  • 高ストレス者への対応フロー策定
  • 管理者にも個別フォロー

安全衛生管理

  • 安全衛生責任者を任命
  • 毎月の安全衛生ミーティング
  • ヒヤリハットの収集
  • 移乗・腰痛研修の計画
  • 感染症対策のマニュアル整備

2026年は「安全・健康・働きやすさ」を軸にした介護経営に

安全衛生法改正は、
“介護職員が無理なく働き続けられるか”を左右する重要なテーマです。

  • 高齢職員が安心して働ける
  • メンタル不調が早めにわかる
  • 夜勤・入浴・移乗などの事故が減る
  • 管理者・法人本部との連携が強化される

これは単なる法令対応ではなく、
「働き続けたいと思える介護職場」をつくるための基盤となる施策です。

【ストレスチェック体制図(小規模事業所版)】

① 実施体制

  • 外部機関(医師・保健師)を委託先に選定
  • 実施責任者:管理者(施設長/所長)

② 従業員への説明

  • 目的とメリットの説明
  • 個人情報・プライバシーの厳守
  • 結果は本人のみに通知

③ チェック実施

  • Web/紙で回答(年1回)
  • 所要時間:15〜20分

④ 高ストレス者対応

  • 医師面談の勧奨
  • 勤務軽減や配置転換の検討
  • 面談記録は厳重管理

⑤ 職場環境改善

  • 長時間労働の確認
  • 人間関係・チームワークの見直し
  • 夜勤負担の偏り調整
  • カスハラ発生状況の確認

⑥ 年次見直し

  • 安全衛生委員会(相当する会議)で結果共有
  • 改善策を次年度の計画へ反映
高齢職員の安全配慮義務とストレスチェック拡大で介護事業者が準備すべきこと

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