介護事業のカスタマーハラスメント義務化|2026年法改正で求められる体制整備と内部通報制度のポイント

介護事業者は “職員を守る仕組み”を 再構築【2026年 労働法改正】
目次

介護事業にとって「カスハラ義務化」は最大級のテーマ

2026年の労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の改正では、
カスタマーハラスメント(カスハラ)の防止措置が事業主の義務として明確化
される見込みです。

介護業界では、

  • 利用者・家族からの暴言
  • 過度な要求・クレーム
  • サービス外の強要
  • 不当なクレームを背景にした威圧
  • スタッフ個人への攻撃

など、他業界より深刻で継続的なハラスメントが問題になっています。

この法改正は、介護現場の「当たり前の苦労」を法律が正式にカバーする方向に進んでいるため、
事業所にとって“職員を守れる体制”をつくる大チャンスです。

カスタマーハラスメントとは?(2026年改正の定義イメージ)

カスハラは従来「企業が努力すべきこと」という位置付けでしたが、
2026年からは以下が明確化される方向にあります。

【カスハラの典型例】介護業界版

  • 「お前のせいで親が弱った」などの暴言・侮辱
  • 大声で威圧的に責める
  • サービス時間外の要求(深夜の電話など)
  • 職員個人の連絡先を聞き出そうとする
  • 家族からの過度なクレームの連続
  • 何度説明しても“納得しない”ことを口実に居座る
  • 不当な要求(無料の延長、個人的サービス等)
  • SNS等での過度な誹謗中傷

特に介護は 「感情・健康・生活」が深く関わるため、
対応する職員には通常以上の心理的ストレスが発生しやすい特性があります。

2026年改正で“義務化”される内容とは?

厚労省の方針では、以下が明確に「事業主が講じるべき措置」に格上げされる見込みです。

① カスハラ防止方針の策定・周知(義務)

最低限、以下の内容を文書化し、職員に周知する必要があります。

  • カスハラ行為の定義
  • カスハラを受けた場合の相談窓口
  • 組織として「職員を守る」という方針
  • 利用者・家族に求める協力事項

② 利用者・家族への「禁止行為」明示(義務)

利用契約書・重要事項説明書・入所契約・送迎時の案内などへ、
カスハラ防止の項目を追加する流れが進みます。

例:

「職員への暴言・威圧・過度な要求などの不当行為は、サービス提供を継続できない場合があります。」

③ 相談窓口・記録体制の整備(義務)

  • 職員が安心して相談できる窓口(管理者・本部・外部機関)
  • カスハラが発生した場合の記録様式
  • 判断基準・対応フロー
  • 法的措置が必要なケースの判断指針

④ 再発防止策・職員保護の実施(義務)

  • 対応時の複数名体制
  • 家族への訪問時は2名同行
  • 長期的なクレーマーは管理者介入
  • 心理的負担が大きい職員への配置転換
  • 研修やメンタルケアの実施

内部通報制度(公益通報者保護法)の強化も同時に必要

2026年に改正される公益通報者保護法(ホイッスルブロワー制度)では、

  • フリーランス・個人委託・派遣職員も保護対象に拡大
  • 通報者への報復禁止が明確化
  • 通報内容の記録保存の義務化
  • 窓口の設置義務が強化

など、介護事業所にも対応が求められます。

内部通報制度が必要な理由(介護業界版)

  • 職員同士のトラブル(パワハラ・暴言)
  • 利用者・家族からの長期的なカスハラ
  • 不適切ケア・事故隠し
  • 管理者による不当対応
  • 人員配置の違反
  • 個人情報の扱い

“怖くて言えない”状態が事故や離職を引き起こすため、
内部通報制度は「職員を守る装置」として欠かせません。

介護事業者が整備すべき「カスハラ・コンプラ体制」5点セット

以下は2026年までに最低限そろえるべき内容です。

① カスハラ対応マニュアル

内容例:

  • 不当要求の種類
  • 職員が言ってはいけない言葉・言うべき言葉
  • 初動の対応
  • 危険を感じた場合の避難行動
  • 記録様式とフロー
  • 管理者へのエスカレーションルール

② 職員・家族向けの「カスハラ禁止の明文化」

  • 利用契約書への追記
  • 重要事項説明時に口頭説明
  • 事業所内掲示物
  • パンフレット・ウェブサイトへの記載

③ 相談窓口の設置

  • 管理者(所長)
  • 法人本部
  • 外部相談窓口(社労士・弁護士)
  • 24時間受付の外部通報フォーム

④ 記録の標準化

必ず記録すべき内容:

  • 誰が
  • いつ
  • どこで
  • 何を言われたか(事実ベース)
  • 対応者
  • 結果
  • 継続性の有無

「感情ではなく事実を書く」指導が必須です。

⑤ 職員研修(年1回以上)

研修内容:

  • 事例紹介
  • NG対応と良い対応
  • 緊急時の避難行動
  • 記録の取り方
  • 管理者への報告基準
  • カスハラと虐待防止の関係性

介護業界は“対応次第で燃え上がる”こともあるため、
研修は非常に重要です。

カスハラ対策は「採用・離職防止」に直結する

この法改正の重要ポイントは、
カスハラ対策が“人材戦略”と直結することです。

① 若手・中堅職員が辞める理由の上位は「利用者家族トラブル」

多くの離職者アンケートでは、

  • 無理な要求
  • 家族からのクレーム
  • 大声での叱責
  • サービス外の強要

が、精神的負担の大きな要因になっています。

② カスハラ対策がある=“職員が守られる職場”

  • 介護業界は慢性的な人材不足
  • 職員保護の仕組みを設けることは採用力になる
  • 離職率が下がると採用コストも減少
  • 経験者採用の決め手にもなる

内部通報制度の整備で「組織の透明性」が向上する

内部通報制度を整えておくと、
事業所・法人の信頼性が格段に高まります。

メリット

  • 不正・トラブルの早期発見
  • 職員の声が拾える
  • コンプラ違反のリスクが減る
  • 組織の“風通し”がよくなる
  • 行政指導リスクの低減
  • 外部評価(第三者評価、監査、法人本部)にも良い影響

特に法人本部は必須

複数の事業所を運営する法人は、
通報窓口の一元化 を行うことで、
組織の統制が強化されます。

【内部通報制度(公益通報)モデル図】

  1. 職員・派遣・委託スタッフ
    • 匿名・実名どちらでも通報可能
  2. 通報窓口(複数経路)
    • 事業所管理者
    • 法人本部コンプライアンス窓口
    • 外部窓口(社労士・弁護士など)
  3. 受付・記録
    • 通報内容の記録・保存
    • 通報者情報の厳重管理
  4. 調査の実施
    • 事実確認
    • 関係者ヒアリング
    • 証拠の収集
  5. 是正措置
    • 問題点の改善指示
    • 行為者への対応
    • 必要に応じ配置転換
  6. 再発防止策
    • マニュアル改善
    • 研修実施
    • 運用見直し

★ 通報者保護(義務)

  • 不利益取扱いの禁止
  • 匿名性の確保
  • 報復行為の禁止

2026年改正に向けた「実務ステップ」

STEP
現状のカスハラ発生状況を棚卸し
  • 過去1年のクレーム・暴言・トラブル
  • どの利用者・家族に繰り返し起きているか
  • 職員が負担を感じたケースの整理
STEP
マニュアル作成・契約書の追加
  • 不当要求の具体例
  • 職員の対応ルール
  • エスカレーション方法
  • 契約書への追記案を作成
STEP
通報窓口・記録様式の整備
  • 外部窓口の契約も検討
  • 記録フォーマットを統一
  • 報告・保存方法の明文化
STEP
職員研修・利用者家族説明
  • 年1回以上の研修を実施
  • 入所説明時に「カスハラ禁止」を説明
  • 事業所掲示を行う
STEP
法人規程として統一する
  • ハラスメント規程
  • カスハラ対策規程
  • 内部通報規程

法人本部が複数事業所をまとめる形にするのが理想です。

まとめ:2026年は「職員を守る仕組みづくり」が最大テーマ

カスタマーハラスメントと内部通報制度の強化は、
介護事業の働き方と組織文化の質を大きく左右します。

  • 職員を守る
  • 離職を防ぐ
  • 利用者・家族との適切な関係をつくる
  • 組織の透明性を高める

これらは、介護事業にとって長期的な信頼と安定運営に直結します。

介護事業者は “職員を守る仕組み”を 再構築【2026年 労働法改正】

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